某カレーチェーン店に久しぶりに来た。
家族四人。
「私、最後にコインもらい損ねたのよね」
と、あおば(仮名:中2娘)が言う。
中学からは大人。
子ども用ガチャガチャコインは、もらえなくなってしまう。
「だから、希一(仮名:小6息子)。最後のチャンスよ」
そうアドバイスを重ねた。
私たち夫婦は、学生の頃、たびたび利用させてもらったカレー屋さん。
結婚し、子どもができてからも、たまに行くことがあった。
外食がそんなに好きではない子どもも、
「カレー屋に行くぞ」
「やったぁ~!」
ガチャガチャが回せるとなると、行きたがった。
メニューはタブレットで見て、そこから注文するようになったのか。
時の流れは早い。
学生のとき、トッピングは「納豆」やら「オクラ」で、辛さは3、ご飯の量は500gとか食べていた。
歳を取り、ご飯の量は減って、辛さもそんなに求めなくなっていた。
でも今日は、懐かしさも手伝って気が大きくなっていたようだ。
「お、なんかこのトンカツ美味しそう。3辛の400gでいこうかな。あと、サラダもつけちゃおう」
乗せるものは豪華になり、辛さも量も、若い時に迫る勢いだ。
健康を気にして、昔はつけることのなかったサラダまでセットにしてしまった。
「お母さんは山賊カレーで1辛にしようかな。量は200g」
「じゃぁ、私、ハンバーグカレーで1辛で普通の300g」
「フライドチキンカレーで1辛。僕も300gにしとく」
亜弥(仮名:カミさん)、あおば、希一と続く。
「芳醇ソースです。ご自由にお使いください」
トンカツを頼んだからか、ソースを出してくれた。

まだ封も開けられていない。
ありがとう、新品出してくれて。
机にそなえられた福神漬けを食べながら飢えをしのいでいると、
1つ、2つと料理が運ばれてきた。
久しぶりのカレー屋。懐かしの味。満を持して、
「いただきま~す」
一口目をほおばった。
うまい。からい。すすむ。
予想通りの味。裏切らないなぁ、このカレーは。
そんなことを思っていたのは私だけだった。
「え…辛っ…」
「1辛ってこんなに辛いの?」
「1なのに?」
「お母さん、前2食べたとき泣いたのよね。1辛にしといてよかったけど。でも辛いわ」
あおば、希一を筆頭に、亜弥まで「辛い」と続く。
そして、衝撃の事実に気づく。
「あ、私、ここでお子様カレーしか食べたことなかったんだわ」
「僕もだ…」
ここ最近ファミレスに行くと、大人のメニューを頼む二人。
それを見て感動していたのだが、慣れというのは怖い。
それが当たり前になっていたのだ。
カレー屋では初めてだったらしい。
「普通の辛さでも食べたことなかったのに、1辛にしちゃった」
「食べられないかも」
とりあえず、家での作戦「卵を入れる」を試すべく、タブレットで注文。
「温泉卵、2つっと」
来た卵を入れ、なんとかカレーを食べすすめるも、虫の息な二人。
亜弥が気づく。
「あ、なんか『あまくなるソース』っていうのがあるわよ!」
ワラをもつかむ勢いで店員さんにお願いした。
どうやらハチミツで作られたソースらしい。
これでもかとカレーにまく2人。
「なんとか食べられるかも」
数分経った。
それでも残るカレー。
「もう無理」
悲壮感が漂い始める。
「わざわざ高くして辛くしたのに。食べられないなんて」
敗北感すらにじみ出できた。
「卵追加注文して」
「わざわざ辛くしたカレーに、ハチミツをかけるなんて」
「そして残すなんて」
プライドがズタボロになっているようだ。
…
「わかったわかった。食べるから、かして」
希一の皿を平らげ、
「ありがとう!お父さん」
続いて、あおばの皿に向かう。
元々辛かったカレーにハチミツたっぷりって…甘いのに奥から少し辛さが来る。
これは深みではない。とにかくなんか、気持ち悪くなってきた。
数分後。
「ありがとう♪お父さん」
「お父さんに食べてもらうなんて何年ぶり?」
「ほんとよね。2人が大きくなってから、お母さんたちが食べてもらうことが増えてたのに」
「さすがお父さん!」
「ぐえぇ…。ちょっと、トイレ」
見栄を張るもんじゃない。
お腹が張ってしかたがない。
パパ、ハラ、パンパン。
知らんけど。
「あ、希一、コインもらい忘れたね」
いや、もう、知らんわぁ!